MICS(ミックス)のメリット
当院で行っている低侵襲(ていしんしゅう)の MICS では、胸骨を切らないため出血が少なく、傷の感染のリスクもほとんどありません。
傷は小さく、特に女性では傷口が乳房に隠れほとんど見えなくなります(図2)。
また一般的に、胸骨正中切開の手術後は自動車や自転車の運転、上半身を使う肉体労働、テニスやゴルフなどのスポーツは約2カ月間は控える必要がありますが、MICSではそのような運動制限はありません。そのため、早期リハビリ、早期社会復帰が可能となり、手術後のQOL(生活の質)が向上します。
MICS(ミックス)のデメリット
手術時に実際に目で見える範囲が、胸骨正中切開は「大きく、浅く」、小切開での MICS は「小さく、深く」なります。そのため、MICSの手術は技術的には難しくなり、手術時間や人工心肺を回す時間、心臓を止める時間も通常より長くなる傾向があります。
技術を習得するのに時間がかかるため、MICSの経験が少ない施設では、出血量や術後合併症の発生率が高いという報告もあります。MICSを受けるには、経験の多い施設を選ぶことが大切です。
どのくらいの人がMICS(ミックス)を受けてきたの?
当院では低侵襲のMICSを2005年から開始しました。2013年以降は毎年90名を超える病客さまの手術を行い、
2005年から2019年までの累計で1131例の手術症例数となっています(表1)。
最近では高齢者でもリスクの低い人には、積極的にMICSを行う方針としています。
また、弁膜症だけでなく冠動脈バイパス手術(CABG)にもミックス手術を取り入れており、全国からMICS希望の病客さまをうけいれています。
2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
僧帽弁 | 1 | 3 | 16 | 24 | 44 | 37 | 54 | 37 | 49 | 57 | 41 | 50 | 73 | 57 | 53 | 596 |
大動脈弁 | 0 | 0 | 3 | 14 | 11 | 13 | 11 | 11 | 30 | 29 | 33 | 31 | 30 | 40 | 29 | 285 |
僧帽弁+大動脈弁 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2 | 1 | 7 | 8 | 5 | 5 | 1 | 4 | 5 | 39 |
CABG | 0 | 3 | 1 | 3 | 1 | 1 | 1 | 3 | 17 | 16 | 25 | 25 | 21 | 19 | 6 | 142 |
先天性心疾患 | 5 | 6 | 5 | 3 | 1 | 1 | 2 | 1 | 4 | 0 | 0 | 3 | 2 | 1 | 2 | 36 |
そのほか | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 0 | 4 | 3 | 2 | 7 | 3 | 5 | 5 | 1 | 33 |
合計 | 6 | 12 | 25 | 47 | 57 | 53 | 70 | 57 | 110 | 112 | 111 | 117 | 132 | 126 | 96 | 1131 |
どんな病気でMICS(ミックス)ができるの?
当院では条件さえ合えば、基本的にほぼ全ての弁膜症(大動脈弁、僧帽弁、三尖弁)、冠動脈バイパス手術、心臓腫瘍(粘液腫など)、心内血栓除去、不整脈手術に対応しています。僧帽弁形成術の約8割、大動脈弁置換術の約3割、冠動脈バイパス手術の約2割を現在、低侵襲のMICS手術で行っております。
また、当院の特徴として、高齢者の重症大動脈弁狭窄症や、複合弁膜症、多枝冠動脈バイパス術も積極的にMICSで行っています。
誰でもMICS(ミックス)手術を受けられるの?
残念ながら、すべての人で低侵襲のMICSができるわけではありません。全身の動脈硬化の強い人、肺が悪い人、心機能が低下している人などではMICSができない場合があります。その場合は通常の胸骨正中切開での手術をおすすめしています。
逆に、条件さえ整っていれば高齢者でもMICSは可能で、最近の大動脈弁置換術の半数以上が70歳以上の高齢者でした。
MICS(ミックス)よりカテーテル治療の方が低侵襲なの?
当院でも2013年末から経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)を行うようになりました。TAVIは開胸せず、人工心肺を用いず、心臓を止めないため、体への負担はMICSよりも更に少ないと言えます。しかしTAVIの適応は現時点で開胸手術のリスクが高い方のみです。TAVIが不要または不適切とされた場合、通常は胸骨切開で手術が行われます。
当院では高齢者の重症大動脈弁狭窄症でも低侵襲のMICSを行っているため、通常開胸手術、MICS(ミックス)、TAVI、どの治療が最も安全なのかを判断し、その人にとってベストの治療法を提示するようにしています。
診療案内
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