社会医療法人社団十全会 理事長・院長榊原 敬
医療新時代に向けた取り組み
新しい技術と安全性の向上、
そして働き方改革
2019年5月には年号が平成より令和となり、医療の進歩、消費税の引き上げ、少子高齢化、認知症対策、人口減少と病床削減、社会保障費の抑制、働き方改革などさまざまな課題が突き付けられています。医療現場においてもコスト対効果の議論が必要不可欠であり、時代の変化に合わせた変革が求められています。
近年、体に負担の少ない低侵襲手術がもてはやされ、カテーテルや内視鏡を用いた手術の適応拡大が図られています。しかし、平成の時代には技術的な問題が指摘された鏡視下手術の死亡事件があり、手術適応・技術的習熟が必要条件であると改めて警鐘が鳴らされました。当院ではチーム医療を通して多職種連携、合同カンファレンス、委員会活動などにより、医療安全の向上を図っています。
そして、長年診療実績を積み重ねてきただけでなく、心臓大血管領域では手術死亡率や合併症率などの安全指標において平均(1として)に対して(術式により異なるものの)0.23~0.47※という実績を出しています。さらにトラブルゼロ、更なる安全性の向上を目指しています。TAVI(経カテーテル的大動脈弁置換術)はもちろん、Mitra Clip(経皮的僧帽弁接合不全修復術)など新しい手技においても安全で質の高い医療の提供に努めています。
そのほか、医療の現場には下記のようにいろいろな課題があり、これからも課題解決に向け善処していく所存です。
※National Clinical Database(NCD)による集計分析結果(2019年)。NCDの詳細につきましては下記をご参照ください
一般社団法人National Clinical Database(NCD)一般のみなさまへ
病客さまに関する事項
高齢化にともなう課題
- 病気を治すだけ(病院完結型)でなく、元の生活に戻れるよう在宅に向けたサポート(地域完結型)が求められている。
- 早期診断早期治療はもちろん、生活習慣の改善・運動の向上を通して疾病にならない未病対策が必要になってきた。
- 高齢化とともに増加する認知症や慣れない入院生活に対する適応障害にどのように対応するのか。
- 高齢者では併存疾患が多く、薬剤の種類・錠数が多い傾向にある。そのため、薬の飲み忘れや飲み間違えが生じている。(クレーム対応)
- 待ち時間が長い。診察予約と診察時間の間にずれを生じている。
病院の対応
- 2018年4月より地域包括ケア病棟を再稼働し、かかりつけ医を中心とした地域包括ケアシステムに協力している。具体的には、医師だけでなく、薬剤師・看護師・保健師・管理栄養士・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・ソーシャルワーカーなど多職種連携での在宅復帰支援や、かかりつけ医やケアマネージャーなど院外スタッフを含めた退院前カンファレンスを行っている。さらにきめ細かい支援が必要な場合には訪問看護と連携している。
- 食事制限だけでなく、禁煙やメディカルフィットネスを利用した適正な運動指導と実践を通して疾病予防を図っている。これまでに生活習慣病であっても、6カ月間の運動療法と食事指導でメタボから脱却できた方もいるので、啓蒙が必要である。面倒くさがらずに、定期的な運動を継続しやすい環境を整備したい。
- 認知症対策の一環として入院時にリスク評価を行い、せん妄をきたしやすい内服薬についてチェックしている。必要に応じて、院内の多職種連携チームが介入し、入院生活でトラブルが生じないよう配慮している。
- 内服薬の一包化・日付記載だけでは対応しきれていない現状がある。配合剤の利用で錠数を減らす、(軽症の病態には生活習慣の改善で対応してもらい)どうしても必要な薬に絞り込む、内服時期を統一し薬の飲み忘れの防止に努めている。飲み忘れを防止するだけで、短期間に入退院を反復していた心不全の悪化を回避し入院せずに生活できている事例があった。(高齢者独居の場合には、訪問看護師に内服状況を確認してもらうことが一助となる)
- 来院時間と診察時間の勘違いや、診察前に検査に回ると時間的なずれが生じる。診察前に検査が必要な場合には、きちんと予め説明を行うようにしている。待ち時間の削減に向け、病状が安定している病客さまの逆紹介の推進、紹介における診察予約の推進を図っている。
職員に関する事項
少子化や東京一極集中に関係した課題
- 労働人口の減少を反映し人材確保が難しくなり、職種により欠員を生じている。その背景には、医療職における地域の偏在(東京一極集中)と診療科の偏在(救急に関連した勤務環境が厳しい診療科は敬遠されやすい)が問題となっている。
働き方改革に関する課題
- 心臓大血管の救急の砦として、業務内容が時間外労働になりがちではないか。
- 全国レベルでは医師の10%で年間残業時間が2000時間を超える実態があり、当院でも一般労働者と比較して残業時間が長い。
病院の対応
- 法的要件を満たし安全を確保した上で、業務の見直し・効率的運用を進めている。働き甲斐とともに働きやすい環境を整備し、優秀な人材の確保に努めている。その上でハイボリュームセンターとして数多くの症例を経験し効率的な技能の習得と、短期間に資格取得が可能な指導・教育体制で人材育成に力を入れていることをアピールしたい(職種に応じて資格給あり)。
- 24時間365日の救急体制を堅持した上で、過重労働とならないよう業務マニュアル・チェックリストの見直し、勤務体制の見直しを図っている。昨年秋に新しい電子カルテシステムへ入れ替えて、クリパスの活用を含め業務の効率化を進めている。
- 残業の多い部門の業務見直しを図り、大きな残業が生じないように配慮している。社労士の助言を取り入れて院内業務の見直しを進め、36協定の改定を行った。当院では原則年間960時間以内(法定上限は年間1860時間/医師)としている。法的には医師について5年間の猶予期間が認められている。今後の働き方改革に合わせ、引き続き見直しを予定している。
令和元年8月1日